保守契約を見直したい、制作会社を変えたい。そう思って制作会社に連絡したら、「サイトの著作権は弊社にありますので、データはお渡しできません」と言われた。この状況に直面して途方に暮れている経営者は少なくありません。この記事では、ホームページの著作権の仕組み、制作会社がこの主張をする本当の理由、そして実際にサイトを移転するための具体的な対処法を解説します。
制作会社から「著作権は弊社にあります」と言われるケースが増えている
このトラブルは、主に以下のような場面で発生します。
- 保守契約の料金が高いため、別の会社に乗り換えようとしたとき
- 制作会社の対応が遅い・質が悪いため、契約を解除しようとしたとき
- 制作会社が廃業・連絡不通になり、サイトのデータを回収しようとしたとき
- サーバーを移転しようとしたら、制作会社の許可が必要だと言われたとき
弊社にも「制作会社が著作権を盾にデータを渡してくれない」という相談が定期的に寄せられます。特に多いのは、月額の保守契約を解約しようとした際に、「解約されるのであれば、サイトのデータはお返しできません。著作権は弊社にあります」と言われるパターンです。中には、「サイトを削除する」と脅しに近い対応をされたケースもあります。
この問題の根本にあるのは、サイト制作を依頼する段階で著作権の帰属を明確に取り決めていないことです。制作時に「デザインに満足している」「費用も払った」という感覚があるため、著作権の問題が表面化するまで意識されることがありません。しかし、いざ制作会社を変えようとした段階で、初めてこの問題に直面することになります。
こう言われると、「著作権があるなら仕方ないのか」と諦めてしまう方が多いです。実際、弊社に相談に来る方の約半数は、一度は「仕方ない」と受け入れた後で、やはり納得がいかないと改めて相談に来られます。しかし、制作会社の主張が法的に正しいとは限りません。まずは著作権の基本的な仕組みを理解した上で、冷静に対処することが重要です。感情的に対立するのではなく、法的な根拠に基づいて交渉を進めることが解決への最短ルートです。
ホームページの著作権は「誰に」あるのか
著作権法の原則では「制作した側」に著作権がある
著作権法の原則では、著作物を創作した人(または法人)に著作権が発生します。ホームページの場合、デザインやソースコード(HTML、CSS、JavaScriptなど)を実際に制作したのが制作会社であれば、著作権は原則として制作会社に帰属します(出典 著作権法 e-Gov法令検索)。
これは「お金を払って発注した側」に自動的に著作権が移るわけではないということです。建物の設計図を建築士に依頼した場合、建物の所有権は発注者のものですが、設計図の著作権は建築士に残るのと同じ構造です。この原則を知らない方が大半であり、制作会社側がそこを突いてくるわけです。
ただし契約書の内容次第で「発注者に帰属」にもできる
著作権法の原則はあくまで「契約で定めがない場合」の話です。制作契約書に「納品物の著作権は発注者に譲渡する」と明記されていれば、著作権は発注者(あなたの会社)に移転します。
適切な制作契約書には、以下のような著作権条項が含まれているのが一般的です。
- 「納品物の著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む)は、対価の支払い完了をもって発注者に譲渡する」
- 「受注者は納品物について著作者人格権を行使しない」
このような条項が契約書にあれば、著作権は発注者に帰属しており、制作会社が「著作権は弊社にあります」と主張する根拠はありません。まずは制作時の契約書を確認してください。
契約書がない場合の著作権の扱い
中小企業のサイト制作では、正式な契約書を交わさずに口頭や簡単なメールのやり取りだけで制作が進むケースが非常に多いです。契約書がない場合、著作権の帰属は著作権法の原則に戻り、「制作した側」に著作権があるとみなされます。弊社への相談でも半数以上が「契約書が見当たらない」「契約書を交わした記憶がない」という状況です。
ただし、契約書がなくても「発注者がサイトを自由に使える」という暗黙の合意が存在すると認められるケースもあります。制作費用を全額支払い、サイトを自社の営業に使っている実態があれば、少なくとも「利用権」は発注者にあると主張できる可能性があります。このあたりは個別のケースによるため、後述する専門家への相談が有効です。
制作会社が著作権を主張する本当の理由
制作会社が著作権を持ち出す場面のほとんどは、純粋な法的権利の主張ではありません。実際の目的は別のところにあります。
最も多いのは、保守契約を解約させないための交渉材料として使うケースです。「著作権は弊社にあるので、解約すればサイトは使えなくなります」と言われれば、多くの経営者は解約を思いとどまります。制作会社にとっては、保守契約の月額収入を守るための防衛手段です。月額3万〜5万円の保守契約であれば年間36万〜60万円の売上になるため、1社失うだけでも制作会社にとっては痛手です。
次に多いのは、乗り換え先の制作会社にデータを渡したくないというケースです。自社が制作したデザインやコードを、競合となる他の制作会社に使われることへの抵抗感から、データの引き渡しを拒否します。特にオリジナルデザインに自信を持っている制作会社ほど、この傾向が強くなります。
また、制作費用の未払いがある場合は、制作会社がデータの引き渡しを拒否する正当な理由になります。制作費を全額支払っているかどうかは、交渉の前に必ず確認してください。未払いがある場合は、まず支払いを完了させることが先決です。
実際問題として、制作会社が著作権を根拠に訴訟を起こすケースは極めて稀です。訴訟には弁護士費用と時間がかかり、中小企業のサイト制作費(数十万〜数百万円)の範囲では割に合わないためです。つまり、著作権の主張は「法的な切り札」というよりも「交渉上の牽制」として使われていることがほとんどです。(これは制作業界では公然の秘密です)
「著作権があるからデータを渡せない」は法的に正しいのか
制作会社の「著作権があるからデータを渡せない」という主張には、いくつかの法的な問題点があります。
まず、著作権と「データの引き渡し」は別の問題です。著作権は「複製」「改変」「公衆送信」などの権利をコントロールするものであり、データの物理的な引き渡しを直接的に禁止するものではありません。サーバー上にあるサイトのデータへのアクセス権と、著作権は別の法的概念です。
次に、発注者には通常「利用権」があります。制作費を支払ってサイトを発注した以上、そのサイトを自社の営業目的で利用する権利(利用許諾)は、明示的な契約がなくても黙示的に付与されていると考えるのが一般的です。利用権の中には、サーバーの移転に伴うデータのコピーも含まれると解釈できる余地があります。
さらに、サイトのすべての要素に著作権が認められるわけではありません。テキスト情報(会社概要、サービス説明など)の著作権は原則として発注者にあります。また、一般的なHTMLやCSSの記述、WordPressのテンプレートを利用した部分には、著作物としての創作性が認められないケースもあります。
つまり、制作会社の主張は法的に完全に正しいとは言い切れず、交渉の余地は十分にあります。「著作権があるから何もできない」と思い込んで諦める必要はありません。
なお、WordPress本体やプラグイン、無料テーマ・有料テーマなど、第三者が開発したソフトウェアを使っている部分については、そもそも制作会社に著作権はありません。WordPressはGPLライセンス(自由に使用・改変・再配布できるライセンス)のもとで提供されており、WordPressベースで作られたテーマやプラグインもGPLの適用を受けます。制作会社が「WordPressのテーマの著作権は弊社にある」と主張しても、GPLの原則に反する可能性があります。
サイトを移転するために取れる具体的な対処法
まず契約書を確認し、著作権の帰属条項を探す
最初にやるべきことは、制作時の契約書、見積書、発注書、メールのやり取りなど、契約に関する書類をすべて確認することです。著作権の帰属に関する条項が見つかれば、それが交渉の最も強い根拠になります。
「著作権は発注者に譲渡する」と書かれていれば、制作会社の主張は契約違反です。逆に「著作権は受注者に帰属する」と書かれている場合は、制作会社の主張に法的根拠があることになります。契約書が見つからない場合は、次の交渉ステップに進んでください。
制作会社と交渉し、データ引き渡しまたはライセンス取得を求める
契約書に著作権条項がない場合、または契約書自体がない場合は、制作会社との直接交渉になります。交渉のポイントは以下の通りです。
- 感情的にならず、ビジネスライクに話を進める
- 「データの引き渡し」と「著作権の譲渡」を分けて交渉する
- 著作権を譲渡してもらえなくても、利用許諾(ライセンス)だけで移転は可能
- 必要であれば、著作権の買取費用を支払う提案をする
多くの場合、追加費用を支払うことでデータの引き渡しに応じてもらえます。費用の相場はケースバイケースですが、制作費の10〜30%程度が交渉の着地点になることが多いです。制作費が100万円だったサイトであれば、10万〜30万円程度でデータを引き渡してもらえる計算です。「無料で渡してほしい」という要求よりも、「適正な対価を支払うので引き渡してほしい」という交渉の方が成功率は格段に高くなります。
交渉の際は、すべてのやり取りをメールなど書面に残してください。電話でのやり取りは「言った言わない」の問題になりやすく、後から揉める原因になります。交渉結果が出たら、合意内容を文書化し、双方が署名する形で記録を残しておくことを推奨します。
交渉が難航する場合は弁護士や行政書士に相談する
制作会社が交渉に応じない場合は、著作権に詳しい弁護士や行政書士に相談してください。弁護士名義の内容証明郵便を送ることで、制作会社が態度を軟化させるケースは多いです。制作会社も訴訟に発展することは避けたいため、弁護士が介入した時点で現実的な着地点を模索し始めることがほとんどです。
弁護士費用は相談だけなら1万〜3万円程度、内容証明の作成まで依頼しても5万〜10万円程度が目安です。IT・知的財産に強い弁護士であれば、同様のケースの経験が豊富なため、スムーズに対応してもらえます。
文化庁の「著作権相談窓口」でも、著作権に関する基本的な相談を無料で受け付けています(出典 文化庁 著作権に関する相談窓口)。まずはこちらに相談してから、弁護士への依頼を検討するのも一つの方法です。
サイトを一から作り直す選択肢も検討する
交渉が長引く場合、サイトを一から作り直した方が早いケースもあります。特に制作から5年以上経過しているサイトは、デザインや機能が古くなっていることが多く、移転よりもリニューアルの方が結果的に費用対効果が高くなることがあります。
テキスト情報(会社概要、サービス内容、実績など)の著作権は原則として発注者にあるため、これらのコンテンツは新しいサイトにそのまま使えます。写真についても、自社で撮影したものや素材サイトから購入したものであれば、再利用に問題はありません。制作会社が独自にデザインした部分だけが著作権の対象となるため、「デザインは新しくするが、コンテンツは引き継ぐ」という方針でリニューアルすれば、著作権の問題を回避しながら新しいサイトを立ち上げることが可能です。
作り直しにかかる費用と、制作会社との交渉にかかる費用・時間・精神的負担を天秤にかけて判断してください。制作から5年以上経過しているサイトであれば、スマートフォン対応やデザインの刷新も含めてリニューアルした方が、結果的に投資対効果は高くなるケースが多いです。弊社でも、著作権トラブルをきっかけにリニューアルされたお客様は少なくありません。
今後のトラブルを防ぐために契約時に確認すべきポイント
今回の経験を踏まえ、今後サイト制作を発注する際は、以下の点を契約書に明記するようにしてください。
| 確認項目 | 契約書に入れるべき内容 |
|---|---|
| 著作権の帰属 | 「納品物の著作権は対価の支払い完了をもって発注者に譲渡する」 |
| 著作者人格権 | 「受注者は著作者人格権を行使しない」 |
| データの引き渡し | 「契約終了時、受注者はサイトのデータ一式を発注者に引き渡す」 |
| 解約時の移行期間 | 「解約後○カ月間は、サーバーおよびデータの移行に必要な協力を行う」 |
| ドメイン・サーバーの名義 | 「ドメインおよびサーバーの契約名義は発注者とする」 |
特に重要なのは、「著作権の帰属」と「データの引き渡し」の2点です。この2つが契約書にあるだけで、将来の移転トラブルはほぼ防げます。口頭の約束では後から「そんな話はしていない」と言われる可能性があるため、必ず書面に残してください。
なお、制作会社によっては「著作権の譲渡には追加費用がかかる」と言われることがあります。追加費用が必要かどうかは交渉次第ですが、将来のリスクを考えれば、制作時に数万円の追加費用を払ってでも著作権を確実に取得しておく方が賢明です。この初期投資を惜しんだ結果、後から数十万円単位の交渉コストがかかるケースは珍しくありません。著作権を巡るトラブルで弁護士に相談する費用の方が、はるかに高くつきます。
また、ドメインとサーバーの契約名義も見落としがちなポイントです。著作権の問題をクリアしても、ドメインの名義が制作会社になっていると、移転時に別のトラブルが発生します。制作を依頼する際は、ドメインとサーバーは自社名義で契約し、ログイン情報も自社で管理することを徹底してください。
最後に
制作会社から「著作権は弊社にあります」と言われても、それがすべてのケースで法的に正しいわけではありません。契約書の内容、制作の経緯、支払い状況などによって、交渉の余地は十分にあります。まずは契約書を確認し、必要に応じて専門家に相談してください。
Web管理では、他社が制作したサイトの引き継ぎや、制作会社の乗り換えに伴う移転作業も歓迎しています。「今の制作会社と揉めていてサイトの管理が止まっている」「どう交渉すればいいかわからない」という状態からでもご相談いただけます。現状の整理からサポートいたしますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

