セミナー・イベント・店内・施工現場などで撮影したお客様の集合写真や顔写真を、自社のホームページに載せてもいいのか。これは小売業・サービス業・教育業など、お客様と直接接する事業者から頻繁に寄せられる相談です。本記事では、肖像権の基本ルール、お客様写真の掲載可否の判断基準、撮影時の同意の取り方、未成年が写る場合の特殊な扱い、削除依頼への対応までを実務目線で解説します。
原則として「お客様の事前同意なし」でホームページに顔写真を載せてはいけない
結論として、お客様の顔がはっきり判別できる写真を、本人の同意なくホームページに掲載することは原則として禁止です。肖像権は法律上の権利として保護されており、無断掲載は損害賠償請求の対象になり得ます。
肖像権は判例で確立された人格権の一種
肖像権という権利は、民法に明文規定はないものの、最高裁判例で「人格権の一種として保護される」と確立されています。撮影される側の同意なしに顔写真を撮影・公表することは、原則として肖像権侵害に該当します。仕事中・サービス利用中の顔写真も例外ではないため、商業利用ではより慎重な対応が求められます。
個人情報保護法の観点でも本人同意が必要
顔写真と個人特定情報(氏名、所属、利用日時等)を組み合わせると、個人情報保護法上の「個人情報」に該当します。事業者が顔写真をホームページで公開する行為は「個人情報の第三者提供」に当たり、原則として本人の同意が必要になります(出典 個人情報保護委員会)。
無断掲載のリスクは「気づかれなければ問題ない」ではない
「お客様に気づかれなければ大丈夫」「みんなやっているから」という認識で無断掲載を続けると、ある日突然削除依頼や法的措置の通知が届くケースがあります。SNSでの拡散により、撮影されたお客様本人が偶然見つけてしまうことは現代では十分にあり得ます。

事業形態別の掲載可否の基本判断
事業形態によって、お客様写真の掲載リスクと求められる同意の厳格度は変わります。代表的な業種ごとに整理します。
美容室・サロン系(カット・カラー・ネイル等)
施術前後の比較写真、施術中の様子、お客様のスタイル写真などを撮影・掲載するケースが多い業種です。基本的に1人1人のお客様から事前同意を取得することが必須で、書面または同意フォームでの記録が必要です。撮影時に口頭で確認しただけでは、後から「言われていない」とトラブルになります。
飲食店・カフェ系
店内の雰囲気写真や、お客様が食事を楽しむ様子をホームページやInstagramに掲載するケースです。お客様の顔がはっきり判別できる構図は同意が必要ですが、「後ろ姿のみ」「斜めから個人特定不可」の構図であれば許容範囲とされることが多くあります。判断に迷う場合はぼかし加工を行ってください。
セミナー・研修・イベント系
講演会場の全景写真、ワークショップ中の参加者の様子、懇親会の集合写真など、複数人が写る写真の掲載が多い業種です。事前にイベント参加申込時に「撮影・掲載同意」をチェックボックスで取得しておく方式が一般的になっています。
施工業・建設業(リフォーム前後の写真等)
施工後のビフォーアフター写真をホームページに掲載するケースが多い業種です。施工物件の所有者(オーナー)からの掲載許諾は必須で、お客様の顔が写る場合は別途同意が必要になります。住所が特定できる外観写真も、防犯上の理由で掲載を断られるケースがあります。
医療・歯科・整骨院など医療系
患者の症例写真や術後の写真を掲載するケースですが、医療系は特に厳格な同意管理が求められます。患者プライバシーに関わるため、書面同意・撮影時の用途明示・公開範囲の合意が必要です。医療広告ガイドラインの規制対象にもなるため、専門家との事前相談を推奨します。患者の特定につながる情報(氏名、生年月日、症例の詳細等)と写真を組み合わせる場合は、特にリスクが高まるため慎重な判断が必要です。
学習塾・スクール系
授業風景・合格実績・スピーチ大会等の写真を掲載するケースが多い業種です。子どもが写るケースが多いため、入塾時に撮影同意書を保護者から取得しておく運用が必須です。同意書には掲載媒体ごとの選択肢を設け、保護者の希望に細かく対応できる形が望まれます。
撮影時に同意を取る具体的な方法
掲載トラブルを根本から防ぐには、撮影前または撮影時に明確な同意を取得することが必須です。同意の取り方を整理します。
事前申込フォームに掲載同意のチェックボックスを設ける
セミナー・イベント・教室など事前申込のあるサービスでは、申込フォームに「撮影された写真をホームページ・SNS等で使用することに同意する」というチェックボックスを設けてください。同意した参加者のみが撮影対象になる運用にすれば、後のトラブルを防げます。同意項目には、掲載媒体(ホームページ・SNS・パンフレット等)、掲載期間、用途を具体的に記載します。
来店時に書面で同意書を取得する
飛び込みのお客様や予約なしで来店するお客様には、撮影時に書面で同意書を取得します。同意書には「撮影の目的」「掲載媒体」「公開期間」「途中での削除依頼の権利」を明記し、お客様控えと事業者保管用の2部作成してください。
撮影掲示・店内告知で「黙示の同意」を取る方法もある
明示的な同意書を取らない方法として、店内・会場入口に「館内では撮影を行い、公開する場合があります。撮影を希望されない方はスタッフまでお声がけください」という告知を掲示する方法もあります。この方法は「黙示の同意」とされますが、トラブル時の証拠力が弱いため、書面同意と併用するのが望ましいです。
撮影画像を見せてから掲載可否を最終確認する
撮影が済んだあと、お客様に実際の写真を見せて「この写真を掲載してよいか」を最終確認する方法もあります。お客様が「思っていたよりも顔がはっきり写っている」と感じるケースもあるため、実物確認は信頼関係の維持にも有効です。
未成年・子どもが写る場合の特殊なルール
未成年(特に小学生以下の子ども)が写る写真は、より厳格な対応が必要です。保護者の明確な同意なしでの掲載は避けてください。
保護者の書面同意が必須
未成年が写る写真の掲載には、保護者の明確な書面同意が必要です。子ども本人の口頭同意では法的に不十分とされます。撮影前に保護者から書面で同意を取得し、保管しておく運用が必須です。
学校・保育園・幼稚園では特に慎重な対応
子ども向けスクールや習い事教室では、入会申込時に「撮影・掲載同意書」を提出してもらうのが一般的です。保護者によっては「集合写真の中の1人としての顔出しはOK」「個人がはっきり分かる写真はNG」など、許容範囲が異なるため、選択肢を用意した同意書フォーマットが理想です。
子どもの将来を考えてぼかし加工を選択する
仮に同意があっても、子どもの顔写真をインターネットに公開することには長期的なリスクがあります。子ども本人が成長後に検索すると過去の写真が出てくる、悪意ある第三者に画像が利用されるなどの可能性があるため、デフォルトでぼかし加工またはモザイク処理を選ぶ事業者も増えています。
SNS拡散のリスクを保護者に説明する
ホームページに掲載した子どもの写真は、SNSや画像検索を通じて拡散する可能性があります。撮影同意を取る際に、SNS拡散のリスクや、削除しても完全には消えない可能性があることを保護者に説明する義務があると考えるべきです。一度インターネット上に出た画像は、Wayback Machineなどのアーカイブサービス、第三者の保存、画像スクレイピングなどにより、完全に消すことは事実上不可能です。
イベント・発表会での集合写真は顔配置で工夫する
運動会・発表会・卒業式などのイベントで撮影する集合写真は、全員の顔が判別できる構図ではなく、後ろから撮影する、遠景にする、全員のシルエットだけが分かる構図にする、といった工夫で個人特定リスクを下げることが可能です。最近では「集合写真は撮るが、ホームページには遠景のみ掲載する」という運用も増えています。
子どもの顔写真の取り扱いは、保護者の同意があっても慎重すぎるくらいの対応が望まれます。トラブル時の社会的影響が極めて大きいため、ぼかし加工をデフォルトとする事業者が増えています。
お客様からの掲載削除依頼が来た場合の対応
同意を取って掲載していた写真でも、後からお客様から削除依頼が来ることがあります。迅速かつ丁寧な対応が原則です。
依頼があれば即時削除が原則
掲載許諾は撤回可能と考えるべきです。お客様から削除依頼が来た場合は、原則として即時に削除対応してください。「同意書にサインしたのだから消せない」という対応は、お客様の心象を悪化させるだけでなく、結果的に法的問題に発展する可能性もあります。
削除対象を本人と確認する
削除対象が写真1枚なのか、関連する文章・キャプションも含むのか、本人の希望を確認してください。本人意思を尊重した範囲で削除を行います。
削除完了の報告を本人に行う
削除作業が完了したら、本人に「○月○日に削除完了しました」とメール等で報告してください。報告がないと「本当に削除されたのか分からない」と不安を持たれ、信頼関係を損ねます。
Googleキャッシュの削除リクエストも合わせて行う
サイトから削除しても、Google検索のキャッシュには一定期間残ります。本人が「検索結果からも消してほしい」と希望する場合は、Search Consoleの「削除ツール」を使ってキャッシュ削除のリクエストを送ります。完全に消えるまで数日〜数週間かかる旨も本人に説明しておくと、トラブルを避けられます。
SNS投稿の削除も合わせて行う
ホームページだけでなく、Instagram・Facebook・X(旧Twitter)・YouTube等のSNSに同じ写真を投稿している場合、そちらも合わせて削除します。SNSはホームページよりも削除されにくく検索性が高いため、削除漏れがあると本人にとって不利益が続きます。「自社が掲載した全媒体から完全削除する」という姿勢で対応してください。
同意なしで掲載してよい写真の条件
例外的に、本人同意なしでも掲載してよいとされる写真も存在します。条件を整理しておくと、判断に迷ったときの基準になります。
個人が特定できない写真
後ろ姿のみ、遠景で顔が判別できない、シルエットのみ、といった個人特定が不可能な写真は、肖像権侵害には該当しないとされます。ただし「特定できない」の基準は判断が難しいため、迷ったら同意を取るのが安全です。
イベントなど公開の場での全景写真
大規模イベント・展示会・公開セミナーなど「公開の場」での全景写真は、特定個人を狙ったものでなければ許容されるケースが多くあります。ただし、特定の参加者にフォーカスした写真は同意が必要です。
事業者自身の活動を伝える写真
店内の様子、施工現場、商品陳列など「事業者自身の活動」が主題で、人物が背景として写る程度の写真は、許容範囲とされます。ただし顔がアップで写る構図は避けてください。撮影する際は、人物が中心ではなく、店舗・商品・空間が中心の構図を意識すると安全です。
従業員・スタッフのみが写る写真
自社の従業員・スタッフのみが写る写真は、社内の同意取得ルールで運用可能です。お客様写真ほど厳格な対応は不要ですが、それでも本人の同意取得は必要で、退職時には削除する運用を組み込むべきです。
ぼかし加工・顔モザイクで個人特定不可にする
撮影してしまったが同意が取れない写真は、顔部分のぼかし加工・モザイク処理を行えば掲載可能になります。事後加工で対応可能な写真は、加工して掲載するという選択肢も検討してください。スマホの写真編集アプリでも顔ぼかし加工は数十秒で完了するため、手間に対する効果は十分にあります。
同意書テンプレートに最低限含めるべき項目
同意書を初めて作る場合、最低限含めるべき項目を整理しておくと、後のトラブル防止に役立ちます。
同意書の必須項目
- 撮影日時・撮影場所・撮影者の氏名
- 使用目的(広報・採用・商品紹介・実績紹介等)
- 掲載媒体(自社サイト・SNS・パンフレット・動画等)
- 掲載期間(在掲載期間中、または無期限)
- 第三者提供の有無と範囲
- 同意撤回の方法と連絡先
- 削除依頼があった場合の対応方針
- 同意者の氏名・連絡先・署名欄
- 未成年の場合は保護者の氏名・連絡先・署名欄
1枚の同意書で複数媒体・複数期間をカバーする工夫
媒体や期間ごとに別途同意書を作るのではなく、1枚の同意書に複数のチェック項目を設けて、同意者が自分の希望範囲だけにチェックする形式が使いやすいです。「自社サイト掲載に同意」「SNS掲載に同意」「パンフレット掲載に同意」のように個別チェックできるようにすると、同意者の負担を減らしつつ、許諾範囲を明確にできます。
同意書は最低5年間は保管する
同意書は紙の原本を5年以上保管し、電子データもバックアップしてください。トラブル発生時の証拠資料になります。退職した従業員が同意書を取得していた場合も、引き継ぎ資料として残しておくことが必要です。
最後に
お客様の顔写真をホームページに掲載する際は、原則として事前同意の取得が必須です。同意の取得は申込フォームのチェックボックス、書面同意書、店内告知、写真確認の組み合わせで運用するのが現実的です。未成年が写る場合は保護者同意とぼかし加工をデフォルトに、削除依頼には即時対応する姿勢を徹底してください。
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