インバウンド需要を取り込みたいので、ホームページを多言語対応したい。この要望に対して制作会社から提案されるのは、全ページを複数言語で作る構成であることが多く、費用は数十万円から数百万円になります。しかし中小企業にとって、その投資が回収できるケースは限られます。この記事では、必要性の判断基準と、費用をかけない現実的な範囲を整理します。
まず外国語での訪問が実際にあるかを確認する
感覚ではなく数字で判断します。
アクセス解析で言語と国を見る
GA4のレポートで、訪問者の言語設定と国を確認できます。外国語設定の訪問がほぼゼロなら、多言語対応の優先度は低いと判断できます。逆に一定数あるなら、どの言語が多いかを見てから対象を決めます。
実際の来店・問い合わせで困っているかを確認する
店頭で外国語の対応に困っている、英語で問い合わせが来るが返せない、といった実態があるなら、対応の価値があります。「あった方がよさそう」という理由だけで始めると、翻訳したまま更新されないページが増えます。
ブラウザの自動翻訳がすでに機能している
現在の主要ブラウザには翻訳機能が備わっており、外国語話者は自動翻訳でサイトを読んでいます。したがって「読めない」という問題は、以前ほど深刻ではありません。専用ページを作る価値があるのは、自動翻訳では伝わらない情報がある場合です。
費用をかけずにできる現実的な範囲
全ページ翻訳の前に、これだけで足りることがほとんどです。
英語の案内ページを1枚作る
外国人来訪者が必要とする情報は限られています。以下をまとめた英語ページを1枚作るだけで、実用上の大半をカバーできます。
- 事業内容の概要(数行)
- 住所と地図(Googleマップの埋め込み)
- 営業時間と定休日
- 電話番号とメールアドレス
- 提供しているサービスと料金の目安
- 支払い方法(クレジットカード・電子マネーの可否)
- 対応可能な言語と、通訳の要否
ピクトグラムと写真で伝える
言語に依存しない情報伝達も有効です。喫煙可否・バリアフリー・駐車場・支払い方法などは、アイコンで示せば翻訳が不要になります。
Googleビジネスプロフィールを整える
訪日外国人の多くは、Googleマップで店舗を探します。ホームページを翻訳するより、ビジネスプロフィールの写真・営業時間・属性を充実させる方が、実際の来店には効きます。(先に見られている場所を整えるのが順序です)
翻訳が必須になる情報を見極める
予約方法・キャンセル規定・注意事項・アレルギー情報など、誤解が実害につながる情報は、正確な翻訳が必要です。ここは自動翻訳に任せず、翻訳を依頼してください。
機械翻訳をそのまま掲載すると、不自然な表現や誤訳が事業の信頼性を損なうことがあります。特に料金・規約・医療や食品の情報は、人による確認を経てから公開してください。
全ページ多言語化を選ぶ場合の要件
それでも本格的に対応する場合の注意点です。
更新が2倍3倍になる
言語を増やすということは、更新対象のページが言語数だけ増えるということです。日本語版だけ更新され、英語版が3年前のまま、という状態は非常に多く見られます。運用体制を決めてから着手してください。
言語ごとのURLを正しく分ける
言語別のページは、それぞれ独立したURLを持たせる必要があります。同じURLで表示言語だけ切り替える方式は、検索エンジンが各言語版を認識できません(出典 Google 検索セントラル ページのローカライズ版)。
自動翻訳プラグインは慎重に判断する
WordPressの翻訳プラグインには、機械翻訳で自動生成するものと、手動で翻訳文を登録するものがあります。自動生成された低品質なページが大量に公開されると、サイト全体の評価に影響する可能性があります。
構成の比較
| 方式 | 費用 | 更新負荷 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 英語案内ページを1枚 | 数万円 | ほぼなし | 大半の中小企業 |
| 主要ページのみ翻訳 | 10万円〜30万円 | 低い | 外国人客が一定数いる店舗 |
| 全ページ多言語化 | 50万円〜数百万円 | 高い | 海外取引が事業の柱 |
| ブラウザ自動翻訳に任せる | 0円 | なし | 外国語訪問が少ない場合 |
言語の選び方は訪問国の実態で決める
どの言語に対応するかの判断です。
英語が最優先になる理由
母語でなくても英語を読める層は広く、1言語で最も広い範囲をカバーできます。まず英語から始めるのが合理的です。
2言語目はアクセス解析と来店実態で決める
中国語(繁体字・簡体字)、韓国語のいずれが必要かは、実際の訪問者と来店者の内訳で判断してください。「とりあえず4言語」という提案は、更新負荷を4倍にするだけのことがあります。
言語切り替えの導線を分かりやすくする
言語切り替えのボタンは、ページ上部の分かりやすい位置に置いてください。国旗のアイコンは国と言語が一致しないため、言語名を自国語で表記する方式が一般的です。
翻訳以外に必要になる対応
ページを作っただけでは完結しません。
問い合わせが来た後の対応体制
英語で問い合わせが来たとき、誰がどう返信するのかを決めておいてください。返信できない状態でフォームだけ英語化すると、対応できない問い合わせが溜まります。
電話対応の可否を明記する
電話での外国語対応ができない場合、その旨を明記し、メールやフォームへ誘導してください。書いていないと、繋がらない電話が発生します。
予約・決済の実務が回るか確認する
予約システムが日本語のみ、決済が国内カードのみといった状態では、集客できても成約しません。ページの翻訳より、実務が回るかどうかが先です。
最後に
多言語対応は、全ページ翻訳から始める必要はありません。まずアクセス解析で外国語の訪問が実際にあるかを確認し、あるなら英語の案内ページを1枚作る。これで大半の中小企業は十分です。そしてホームページより先に、Googleビジネスプロフィールを整える方が、実際の来店には効きます。全ページ多言語化は、更新負荷が言語数だけ増えることを理解したうえで判断してください。
Web管理では、月額1万円からホームページの運用保守を代行しています。訪問者の言語分析、英語案内ページの作成、多言語構成の要件整理まで対応可能です。「多言語化を提案されたが必要か判断できない」というご相談も歓迎します。

