ホームページの更新ができるのが1人だけ。その人が休むと何もできず、退職すればログイン情報ごと失われる。この状態は、中小企業のWeb運用で最も多いリスクです。この記事では、立派なマニュアルを作ろうとして挫折しないための、1枚から始める作り方と、必ず書くべき項目を整理します。
まず作るべきは手順書ではなく「所在地の一覧」
結論から書きます。操作手順より先に、何がどこにあるかを1枚にまとめることが最優先です。
操作は調べれば分かるが所在は分からない
WordPressの投稿方法は検索すれば出てきますが、自社のログインURLがどこか、サーバーをどこと契約しているか、ドメインの更新をいつ誰が払っているかは、社内の誰かしか知りません。失われて困るのは、この情報です。(操作は学べますが、契約先は推測できません)
1枚目に書くべき項目
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| サイトURL | 公開サイトのアドレス |
| 管理画面URL | ログイン画面のアドレス |
| ログイン情報の保管場所 | ID・パスワードをどこに保管しているか |
| サーバー会社 | 会社名・プラン・契約者名・更新月 |
| ドメイン管理会社 | 会社名・登録者名義・更新月 |
| 支払い方法 | 使用しているカード・振込・請求先 |
| 制作会社・保守会社 | 社名・担当者・連絡先・契約内容 |
| バックアップ | 取得方法・保存先・頻度 |
| アクセス解析 | 使用ツールと権限を持つアカウント |
| 緊急時の連絡先 | サイトが止まったときに連絡する先 |
パスワードそのものは書かない
マニュアルにパスワードを直接書くと、そのファイルが漏れた時点で全権限が渡ります。マニュアルには保管場所だけを書き、実際のパスワードはパスワード管理ツールか施錠できる場所に置いてください。
手順書は「よくやる3つ」だけ作る
網羅しようとすると完成しません。
実際に発生する更新作業は限られている
中小企業のサイト更新は、お知らせの投稿、写真の差し替え、営業時間の変更でほぼすべてです。この3つの手順書があれば、日常業務の8割は回ります。
手順書の書き方
- クリックする場所を画面のスクリーンショットで示す
- 操作は1手順1行で書く
- 専門用語には社内で使う言葉で説明を添える
- 公開前に確認することを最後に列挙する
- 迷ったときに誰へ連絡するかを明記する
公開前チェックを必ず入れる
手順書の最後に、公開前の確認項目を入れてください。カテゴリの選択、公開日、画像サイズ、スマートフォンでの表示確認。この4点を入れておくだけで、投稿事故の大半は防げます。
スクリーンショットは更新のたびに古くなる
WordPressの画面はバージョンによって変わります。スクリーンショットを多用すると、維持できなくなります。画面が変わっても通用するよう、メニュー名を文字で書くことを優先してください。
やってはいけない操作を明記する
できることより、してはいけないことの方が重要です。
禁止事項として書くべき項目
| 操作 | 理由 |
|---|---|
| テーマの削除・変更 | サイト全体が表示されなくなる |
| プラグインの削除 | 機能とデータが消える |
| 設定の一般にあるURL欄の変更 | 管理画面に入れなくなる |
| パーマリンク設定の変更 | 全URLが404になる |
| ユーザーの削除 | その人の投稿も消える可能性がある |
| 固定ページの削除 | メニューとリンクが壊れる |
| 一括更新ボタン | 不具合時に原因が特定できない |
権限設定で物理的に防ぐ方が確実
マニュアルに書くより、そもそも操作できない権限にする方が確実です。WordPressは役割ごとに実行できる操作を制限する仕組みを標準で備えています(出典 WordPress.org Roles and Capabilities)。記事を書く担当者を編集者権限にしておけば、上記のほとんどが物理的に実行できなくなります。マニュアルと権限設定はセットで考えてください。
更新できる人を2人以上にする
マニュアルの目的は、これを実現することです。
1人しかできない状態がリスクそのもの
担当者が病気で休む、退職する、繁忙期で手が回らない。いずれの場合も、サイトの更新が止まります。臨時休業の告知すら出せません。最低2人、できれば経営者本人が更新できる状態を目指してください。
年1回は実際にやってもらう
マニュアルを渡しただけでは、いざというとき使えません。年に1回、普段更新しない人にマニュアルを見ながら実際に投稿してもらってください。詰まった箇所が、マニュアルの改善点です。
マニュアルの保管場所を分散する
サイトが止まっている状況では、サイト内に置いた手順書は読めません。クラウドと紙の両方で保管し、紙は施錠できる場所に置いてください。
更新すべきタイミングを決めておく
作ったマニュアルが陳腐化しない仕組みです。
見直しが必要になるタイミング
- 担当者が変わったとき
- サイトをリニューアルしたとき
- サーバーやドメインの契約先を変えたとき
- 保守会社を変更したとき
- 支払いに使うクレジットカードを更新したとき
- 年1回の定期見直し
支払い情報の更新忘れが事故を生む
クレジットカードの有効期限が切れて自動更新が失敗し、サイトが停止する事故は頻繁に起きます。カードを更新したら、サーバー・ドメイン・各種サービスの登録情報も更新するという手順を、マニュアルに入れてください。
年1回の見直し日を決める
「毎年4月にWeb運用マニュアルを見直す」のように日を決めてください。この際、記載されている契約先・担当者・連絡先が現在も有効かを確認します。
外注している場合も自社側の記録は必要
保守を委託していても、マニュアルは不要になりません。
委託先が把握していることを自社も知っておく
保守会社に任せていても、契約先・名義・更新月といった情報は自社でも把握しておいてください。委託先を変える判断ができるのは、情報を持っている場合だけです。
依頼の窓口と対応範囲を書いておく
何をどこまで依頼できるのか、追加費用が発生するのはどこからか、緊急時の連絡方法は何かを明記してください。担当者が変わったときに、依頼の仕方が分からず放置される事態を防げます。
契約終了時に受け取るものを一覧化しておく
いつか委託先を変える可能性がある以上、その際に受け取るべきものを平時から一覧にしておくと、引き継ぎが早く済みます。
最後に
Web運用マニュアルは、立派なものを作ろうとすると完成しません。まず契約先・名義・更新月・連絡先を1枚にまとめる。次によくやる3つの作業の手順書を作る。そしてやってはいけない操作を明記し、権限設定でも防ぐ。この3段階で、属人化のリスクは大きく下がります。何より、更新できる人を2人以上にすることが目的だと忘れないでください。
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