バックアップは設定してある。しかし実際に復元したことは一度もない。この状態は、消火器を買ったが使い方を知らないのと同じです。本番で初めて復元を試みて、ファイルが壊れていた、手順が分からない、対応できる人がいない、と気づくのが最悪のパターンです。この記事では、復元の実際の手順と、平時に行う復元テストのやり方を解説します。
復元には3つの経路がありそれぞれ手順が異なる
まず自社がどの経路で復元できるかを把握します。
| 経路 | 復元にかかる時間 | 必要な知識 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| バックアッププラグイン | 30分〜数時間 | 低い | 管理画面に入れることが前提 |
| レンタルサーバーの復元機能 | 数時間〜数営業日 | 低い | 保持期間が7〜14日と短い |
| 手動での復元 | 数時間 | 高い | FTPとデータベース操作が必要 |
管理画面に入れるかどうかで経路が変わる
プラグインでの復元は、WordPressの管理画面にログインできることが前提です。サイトが真っ白になって管理画面にも入れない場合、この経路は使えません。その場合はサーバー側の復元機能か、手動復元になります。
サーバーの復元機能は先に条件を確認しておく
レンタルサーバーの自動バックアップからの復元は、手数料が発生する場合や、申請から完了まで数営業日かかる場合があります。緊急時に「3日後です」と言われてから知るのでは遅すぎます。契約中のサーバーの条件を、平時のうちに確認してください。
プラグインからの復元手順
最も一般的な経路です。
基本的な流れ
- 現在の状態をバックアップする(復元に失敗した場合に戻すため)
- バックアッププラグインの管理画面を開く
- 復元したい時点のバックアップを選ぶ
- 復元対象を選ぶ(ファイル・データベース・両方)
- 復元を実行する
- 完了後、サイトの表示とフォームを確認する
復元前に現状をバックアップする理由
復元作業自体が失敗することがあります。その場合、元の状態にも戻せなくなると打つ手がなくなります。壊れている状態であっても、作業前に保存しておいてください。(壊れた状態にも、戻れることに価値があります)
どの時点に戻すかの判断
改ざんされた場合、いつ侵入されたか分からないため、確実に正常だった時点まで遡る必要があります。直近のバックアップに戻して同じ症状が出るなら、さらに古い世代を試します。この作業のために、複数世代を保持しておく必要があります。
ファイルとデータベースの両方を復元する
片方だけ復元すると、記事はあるのに画像が出ない、あるいはその逆の状態になります。WordPress公式も、バックアップの対象としてこの2要素を示しています(出典 WordPress Developer Resources Backing Up Your WordPress Site)。
改ざん被害からの復旧では、復元だけでは不十分です。侵入経路を特定して塞がなければ、数日以内に同じ手口で再度侵入されます。復元と原因除去はセットで行ってください。
復元テストは本番とは別の場所で行う
平時にやるべき検証です。
本番サイトで試してはいけない
復元テストを本番環境で行うと、テストのつもりが本番を壊すことになります。必ず別の場所で実施してください。
テスト環境の作り方
- サーバーのサブドメインにテスト用の領域を作る
- レンタルサーバーのステージング機能を使う(対応プランの場合)
- ローカル環境構築ツールをPCに入れて再現する
- テスト環境には検索エンジンをブロックする設定を必ず入れる
テスト環境が検索結果に出ないようにする
テスト用のサイトが検索結果に表示されると、本番サイトと内容が重複し、閲覧者も混乱します。WordPressの表示設定で検索エンジンをブロックし、可能ならアクセス制限もかけてください。
テストで確認すること
- バックアップファイルが破損せずダウンロードできるか
- 復元処理が最後まで完了するか
- 復元後、トップページと下層ページが表示されるか
- 画像が正しく表示されるか
- 管理画面にログインできるか
- 問い合わせフォームが動作するか
- 作業にかかった実際の時間
かかった時間を記録する
復元にどれだけ時間がかかるかを知っておくと、緊急時に関係者へ復旧見込みを伝えられます。「いつ直るか分からない」と答えるしかない状態は、それ自体が信用を損ないます。
テストで発覚する典型的な問題
実際に試すと出てくる問題です。
バックアップが途中で失敗していた
ファイルは存在するのに、中身が不完全というケースがあります。容量の大きいサイトで、処理が時間切れになっている場合に発生します。失敗時にメール通知が届く設定にしておいてください。
データベースだけしか保存されていなかった
設定を確認したつもりが、ファイルが対象外になっていたというケースです。復元してみて初めて、画像が1枚も戻らないことに気づきます。
保存先の容量が上限に達していた
クラウドストレージの無料枠が上限に達し、数ヶ月前からバックアップが保存されていなかった、という状態です。プラグインの画面では正常に見えるため、保存先を直接確認しないと気づけません。
復元できる人が社内にいなかった
手順を知っている人が退職している、あるいは制作会社に依存している状態です。これは技術的な問題ではなく、体制の問題です。
復元手順を紙で残す
緊急時に参照できる形にしておきます。
サイトが止まっていると社内の資料も見られない場合がある
手順書を自社サイト内やサーバー上に置いていると、障害時に参照できません。クラウドと紙の両方に保管してください。
手順書に含める内容
- バックアップの保存先と、そこへのアクセス方法
- 使用しているバックアッププラグインの名称
- サーバーの管理画面URLとログイン情報の保管場所
- サーバー会社のサポート窓口と契約番号
- 復元の手順(画面名と操作を順に)
- 復元後に確認する項目
- 対応できない場合に連絡する保守会社の連絡先
年1回、実際にやってみる日を決める
手順書を作っただけでは、いざというとき使えません。年に1度、実際に復元テストを行う日をカレンダーに登録してください。この1時間が、事故時の数日を救います。
最後に
バックアップは、取得できていることと復元できることが別問題です。復元テストをしていないバックアップは、機能するかどうか誰も知らない状態にすぎません。テスト環境を用意し、実際に復元し、かかった時間を記録し、手順を紙で残す。年1回1時間の作業で、いざというときの復旧が「試したことがある作業」に変わります。本番で初めて復元を試みる事態だけは、避けてください。
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