ホームページ制作の発注時、見積書の金額は入念に比較するのに、契約書は目を通さずに押印してしまう。この結果、数年後に「サイトを移転できない」「データを渡してもらえない」「解約に半年かかる」という事態に直面します。この記事では、契約書のどこを見るべきかを、実際にトラブルになる順で整理します。
本記事は運用保守の実務で見てきた論点を整理したものです。契約内容の法的な評価や個別の交渉については、弁護士等の専門家にご相談ください。
最も揉めるのは著作権の帰属
順番に並べると、これが第一位です。
「著作権は制作会社に帰属する」と書かれていることがある
制作物の著作権が制作会社に留保される条項は、珍しくありません。この状態だと、自社のサイトであっても、内容を他社が改修することに制作会社が同意しない可能性があります。移転や乗り換えの際に、これが障害になります。
確認すべき3つの権利
| 権利 | 確認内容 | 望ましい状態 |
|---|---|---|
| 著作権 | 誰に帰属するか | 検収・支払完了時に発注者へ譲渡 |
| 著作者人格権 | 行使しない旨の定めがあるか | 制作会社が行使しない旨を明記 |
| 利用許諾の範囲 | 譲渡でない場合の使える範囲 | 改変・再利用・第三者への委託を含む |
譲渡が難しい場合は利用範囲を広く取る
制作会社によっては、汎用的に使っているテンプレートやプログラムを含むため、著作権の全部譲渡に応じられないことがあります。この場合は譲渡にこだわらず、「第三者に改修を委託することを含めて自由に利用できる」旨を明記してもらうのが現実的な着地点です。
素材のライセンスも確認する
使用している写真・イラスト・フォントが、制作会社のライセンスで購入されている場合、契約終了後に使い続けられるかが問題になります。著作権の基本的な考え方は文化庁が解説を公開しています(出典 文化庁 著作権施策に関する総合案内ページ)。誰の名義で購入され、どの範囲まで利用できるのかを確認してください。
解約条件は必ず数字で確認する
入るときより、出るときの条件が重要です。
最低契約期間と解約予告期間
保守契約に「最低契約期間3年」「解約は6ヶ月前までに書面で通知」といった条項が入っていることがあります。不満があっても、実質的に長期間拘束される構造です。契約前に以下を確認してください。
- 最低契約期間の有無と長さ
- 解約予告期間(何ヶ月前までの通知が必要か)
- 中途解約時の違約金の有無と金額
- 自動更新条項の有無と、更新を止める手続き
- 解約の通知方法(書面・メールのどちらが有効か)
自動更新条項に気づかず更新されるケース
「期間満了の1ヶ月前までに申し出がない場合、同一条件で1年間自動更新する」という条項は一般的です。この期限を過ぎると、さらに1年継続することになります。契約日と通知期限を、社内のカレンダーに登録しておいてください。(気づいたときには、もう1年更新されていたというのが典型です)
解約時のデータ返還を明記させる
解約したときに何を受け取れるのかが書かれていない契約書は多くあります。以下を返還対象として明記してもらってください。
- サイトのファイル一式とデータベース
- ロゴ・写真などの元データ
- ドメイン・サーバーの管理権限
- WordPressの管理者アカウント
- Google Analytics・Search Consoleの権限
- 返還の期限と方法
ドメインとサーバーの名義を契約書で押さえる
実務で最も深刻な問題になる箇所です。
名義が制作会社だと移転できなくなる
ドメインの登録者名義が制作会社になっていると、移管に相手の協力が必須になります。関係が悪化してからでは、事実上進みません。契約書に「ドメインの登録者名義は発注者とする」と明記させてください。
サーバー契約も同様に確認する
制作会社が自社サーバーを提供している場合、そのサーバーから出るには全データの移行が必要になります。移行への協力義務が契約書に書かれているかを確認してください。
費用の負担者と契約者を分けて考える
制作会社が立て替えて支払っている場合でも、契約者名義は自社にできます。「請求を受けている」ことと「契約者である」ことは別です。
納品物と検収の定義
「完成」の定義が曖昧だと、支払いのタイミングで揉めます。
納品物を具体的に列挙させる
「ホームページ一式」ではなく、何ページ分のどのファイルが納品されるのかを明記してもらってください。仕様書・デザインデータ・素材の元データが含まれるかも確認します。
検収期間と、期間経過後の扱い
納品から何日以内に検収するのか、その期間内に指摘がなければ検収完了とみなすのか。この定めがないと、修正依頼がいつまでも続く、あるいは逆に修正に応じてもらえない、という双方の不満につながります。
公開後の不具合対応の範囲
公開後に不具合が見つかった場合、無償で対応する期間(瑕疵担保・契約不適合責任の期間)が定められているかを確認してください。この定めがないと、公開翌週の不具合修正が有償になり得ます。
保守契約の対応範囲を数字で書かせる
制作契約とは別に、保守契約の中身も確認が必要です。
曖昧な表現を数字に置き換える
| 曖昧な記載 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 軽微な修正に対応 | 月何回まで、1回あたり何分・何箇所まで |
| 定期的にバックアップ | 頻度・保存先・保持世代数 |
| 障害時に対応 | 受付時間・一次回答までの時間・復旧目標 |
| セキュリティ対策 | 具体的に何を実施するか |
| サーバー・ドメイン管理 | 更新手続きの代行を含むか |
対応時間と緊急時の連絡手段
サイトが止まるのは営業時間内とは限りません。夜間・休日の対応可否と、その場合の費用を確認してください。「24時間対応」と書いてあっても、一次受付だけで実作業は翌営業日というケースがあります。
範囲外作業の単価を先に決める
保守の範囲を超える作業が発生したときの単価が決まっていないと、都度見積もりで時間がかかります。時間単価またはページ単価を契約時に定めておくと、運用が円滑になります。
署名前にやるべきこと
実務的な進め方です。
気になる条項は書面で質問する
口頭で「大丈夫です」と言われても記録に残りません。メールで質問し、回答を保存してください。担当者が変わっても、やり取りの記録は残ります。
修正を依頼してよい
提示された契約書をそのまま受け入れる必要はありません。著作権の帰属、解約予告期間、データ返還の3点は、修正を依頼する価値があります。応じられない理由を説明できない相手であれば、その姿勢自体が判断材料になります。
契約書と見積書の内容が一致しているか確認する
見積書に含まれていた項目が契約書の対象から外れている、というケースがあります。両方を並べて突き合わせてください。
最後に
契約書で確認すべき優先順位は、著作権の帰属、解約条件、ドメインとサーバーの名義、データ返還の4点です。この4つは、公開後に交渉しようとしても著しく不利になります。金額の比較に使う時間の1割でも契約書に割けば、数年後のトラブルはほとんど防げます。なお条項の法的な評価については、専門家にご確認ください。
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